本鱒 区別に意味がないサケとマス 豊洲おさかな図鑑−今日も寿司大に行ってきました(7)
2025-04-26


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標準和名はサクラマス。桜前線とともに現れ、身がきれいな桜色なことからという。実は、サーモンなど火の通っていないサケマス類は苦手なのだが、この本鱒は全くそんな抵抗感がなかった。
 さて、ちょっとでも魚に詳しいと思われると、よく聞かれる質問。
「サケとマスってどう違うんですか?」
 日本のサケマス類には、サケ、ベニザケ、ギンザケ、カラフトマス、サクラマス、マスノスケ、ニジマスが知られている(農林水産省による)。これらはみなサケ属に属する。前回、マダイとクロダイは科が同じで、人間とチンパンジーぐらいの違いと書いた。マダイ属とクロダイ属は属が違う。それで言うと、サケとサクラマスなどは属も同じだから、もっと近い。人間(ホモ・サピエンス)と絶滅したネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)、チンパンジーとボノボ(ピグミーチンパンジー)ぐらいの違いだ。
 これらサケ属の魚の名前にサケと付くかマスと付くかにほぼ意味はない。サケとマスを区別できるような特徴の違いはないし、遺伝子の近縁とも関係なく名前が付いている。サケに一番近いのはベニザケでもギンザケでもなくカラフトマスだ。サケグループとマスグループに分ける科学的な根拠がない。人間の都合で付いた名前だからだ。
 もともと古代の本州から西では、サケ(鮭)とマス(鱒、麻須)の2種類しか知られていなかった。どちらも奈良時代の風土記に登場する。サケと言えばシロザケ、マスと言えばサクラマスのことだった。何しろ他には似たような魚は知られていなかったから。
 明治時代になって、他のサケ属が日本に入ってきて和名が付いた。アメリカのレインボートラウトが養殖用に輸入されてニジマスになった。
 北の海に住むカラフトマスやマスノスケ(キングサーモン)。北洋漁業で捕れるようになったサケ属は当初、ベニマス、ギンマスと呼ばれた。今ではベニザケ、ギンザケになっている。本来のサケ以外すべてマスと呼ぶぐらい鮭は日本人にとって特別な魚だった。だが、マスよりサケと言った方が市場価値が高まるので、改名されたという。
 このほか、サクラマスの仲間のビワマス、サツキマスなどもあるが、これらはサクラマスと別種なのか、亜種なのか、同種なのか意見が分かれる。
 区別が必要になり、ただのサケだったのがシロザケ、アキアジなどと異名がつき、ただのマスもサクラマスや本鱒などと呼ばれるようになった。
 サケ属は、アジアやアメリカの太平洋に面した淡水で生まれる。これに対し、ヨーロッパ原産のノルウェー産サーモンなどは同じサケ科だが、タイセイヨウサケ属だ。和名もタイセイヨウサケ。サケ科イワナ属にもマスと呼ばれる種がある。
 さらに話をややこしくているのは、同じ種なのに育ち方で名前がサケになったり、マスになったりする魚がいることだ。サケ科の魚は淡水で生まれ、海に下って育つ。これを降海型という。だが、海に行かず湖や川で育つのもいて陸封型や残留型という。残る場所によって河川型、湖沼型と呼ぶ場合もある。
 アイヌ語でカバチェッポと呼ばれていた湖の魚ヒメマスは、海に降りなくなったベニザケのことだ。北海道では、湖で捕れたヒメマスを育て、太平洋に注ぐ川に放流して、ベニザケになって戻ってくるようになった。クニマスもこのヒメマスの近縁だ。
 サクラマス、サツキマスにも、海に降りないでそのまま淡水で育つものがいて、それぞれヤマメ、アマゴと別な名前で呼ばれている。 
 降海型と陸封型はあまりに姿が違うため、同じ魚だと気づかなかったことが同種別名の理由だ。
 サケ属の多くは淡水にいる時にパーマークという斑点しま模様がある。海に降りる場合は体表面がスモルト(銀毛)という銀色になる。海で下から見た時、空の色にまぎれやすく天敵に見つかりにくい。海の魚に多い色合いだ。
 サクラマスやベニザケは、同じ親から生まれた卵でも降海型と残留型に分かれることがあるらしい。

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