東京MXで仮面ライダーを放送中と教えたら、後輩2人が息子に見せて「教育」したいと言っていた。見たら、どうして「変身っ!」がないのか、何で急に主役が変わるのか驚くのではないかと。ライダーの正史(?)に載っている有名な話だが、仮面ライダー2号・一文字隼人を演じた佐々木剛本人から直接聞いた。
「はい、佐々木です」。うわあ、一文字隼人だ。電話口から流れる、忘れもしない独特の低音にシビレた。会ったのは十数年前。どうやって連絡先を突き止めたのか。今となっては覚えてない。
2号が登場したり、ましてや仮面ライダーがこんなに増える構想は、原作の石森章太郎にも制作の東映にもなかった。
仮面ライダー1号本郷猛を演じた藤岡弘は、今週・来週放送の第9、10話の撮影で、ライダーの仮面とスーツを付けて演技中、バイクの事故で骨折。放映開始前に入院してしまった(これ以後、本人が変身後のライダーを演じるのはNGに。当たり前だ。いくら無名の新人でも主役にやらせる方がどうかしている*1)。
しばらくは取り貯めした映像でつなげるにしても、藤岡弘での撮影続行は無理。代わりの主役を探さなければ、打ち切りの危機(*2)。
昭和ライダーシリーズのプロデューサー、東映の平山亨から出演を頼まれた佐々木剛は最初断るつもりだった。その本当の理由は、「人気の高い子ども番組でイメージがついてしまい、役者として苦労した先輩を何人も見てきたからだ」と打ち明けた。戦隊ヒーローやライダーやウルトラマンの主演が一流役者への登竜門になったのは平成以降。
「柔道一直線」という人気ドラマの敵役ですでに青春スターとして名前が売れ、NHKの連ドラにも出ていた佐々木さんとしてはそのまま大人向けの役者で行きたかったのだ。「子ども番組なんてイヤだ」とは言えないから口実を考えた。
「劇団で同期の藤岡君が初めてつかんだ主役の座を奪うようなマネはできない」と断ったと正史にもある。
平山プロデューサーも食い下がる。「違うんだ。代役ではない。これは藤岡君のためなんだ。藤岡君を必ず復帰させると約束する。打ち切りになったら藤岡君が戻る場所がなくなってしまう。藤岡君が戻って来るまででいいんだ。それまで番組を守ってくれ」。自分は古いタイプの人間なので男気に訴えるような頼み方をされると弱い。だから引き受けてしまったと語っていた。
2号の登場は第2クール(14話)から。本郷猛はショッカーを追ってヨーロッパに渡り、本郷によってショッカーから救われた一文字隼人が新たに日本を任されたことにしている。ライダー2号から初めて変身ポーズが導入されると視聴率が上昇(*3)。佐々木さんは第2と第3クール、半年分の番組を1人で守った。
第4クール(40話)、ついに藤岡弘が復活。1号本郷猛と2号一文字隼人のダブルライダーでさらに人気が沸騰し、視聴率は30%超え。制作サイドはこのままダブルライダーで続けたい考えだったが、佐々木さんは「藤岡君が戻るまでという約束だ」と強く固辞した。「藤岡君で始まった番組なのに、僕がいたらいつまでも彼は主役に戻れない。彼のために身を引いたんです」。佐々木さんは続ける。「決して仮面ライダーという番組が嫌いだから降りたのではない。その証拠に、主役は降りたが、第1作とその後の仮面ライダーシリーズを通して僕は誰よりもゲスト出演の回数が多い」
ネットで、昭和ライダーと平成ライダーのどちらがカッコいいかという不毛な論議を見た事がある。あえて言わせてもらおう。仮面ライダー歴代シリーズの中で、役者としても、その生き様も、最もカッコいいのは佐々木剛であると。
◆仮面ライダーを激怒させた日 一文字隼人・佐々木剛に話を聞きに行った(後編)
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◆仮面ライダーの戦いは正義のためでない 市川新一の遺言
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◆ISSAが泣いたのはなぜ 聞きたくて会いに行った 昔の話ですが 仮面ライダーな役者たち
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